アビリーンへの逃避行

痙攣的な日記録 あるいは感想文

夢日記

夢を見た。

 

病院にいた。いや、運ばれた。輸送されたのだ。

寝る前の習慣として、部屋でデルモンテトマトジュースをラッパ飲みしていると、突然舌がもつれ、足が痺れ、目の前がぐるぐるとする。地球が回っている。ガリレオ以来の地動説。

そういうわけで部屋でぶっ倒れていると、借金取りがやって来た。

「俺はあんたの身ぐるみを剥ぎ、一文無しにするつもりでいるが、命まで取る気はねぇ。何せ、あんたがおっ死んじまったら誰が金を稼いで俺に払ってくれるんだ?」 

まったくもってその通りだ、と僕は思った。

借金取りは親切にも病院まで僕を送ってくれる。

後は勝手にやりな、と車内から足で蹴り飛ばされ、僕は冷たいアスファルトに這い蹲ったまま頭上から排気ガスを浴びて、それで車が去っていくことを知る。ブロルロルロロロ……

ひどい気分だ。神経という神経がいったん全て解され、ばらばらになった後にまた戻すのは面倒くさいからこんがらがってめちゃくちゃになったまま、身体に押し込まれたみたいだ。

ふらふらしたまま、あちらこちらの壁にがつんがつんとぶつかりながらなんとか受付まで辿り着く。

あの、とても気分が悪いんです。

トマトジュース…飲んでて、借金取りのおじさんが排気ガスを吹きかけたからこんなひどいにおいがするので、別に生来ってわけじゃなくて…、いや、この格好はこれから寝ようと思ってたので、病院に来るって分かってたなら僕だってスーツにネクタイをちゃんと締めて恥ずかしくない格好で……借金!?借金は無いです。借金なんて借りを他人に作るわけないじゃないですか。あの人はきっと頭がおかしいんです、だって彼には毎月お金を払ってはいるけれど、それは家賃みたいなもので、生きる為には毎月定額で金銭を支払わなければいけないでしょう?ケータイだってそうじゃないですか。それは存在し続ける為に仕方なく払わなければいけない場代みたいなもんです。お姉さん、ポーカーはやりますか?……やらない?あのね、僕もポーカーはやりませんけど、つーかギャンブル自体やりませんけど、アンティのルールは守っているつもりですよ。つまり場代です。…あれ?僕はさっきもこんなこと言いませんでした?そんなことはどうでもいいんですが、さっきからお姉さん、左手の指でカウンターの裏側の何かを連打してませんか?知ってますよそれ、あはは、スイッチだ。あまり心地よくない場所に僕を連れて行ってくれる屈強な人たちを呼び出すための。まぁ、構いませんよ。神経がぐちゃぐちゃのままフラフラしてる今・ここより悪い場所なんてないんだから。

それで思い出しました。ひどく気分が悪いんです。入院させてくれませんか?

「駄目です」

「あなたは見る限り病人として失格しています。普通の病人はデルモンテトマトジュースで気分を悪くしたりしませんし、とても穏やかでお医者さまの言葉に従い、症状の改善に努めています。しかし、あなたはデルモンテトマトジュースで気分を悪くするくせに、お医者さまなどはなから信じていませんし、第一あなたはあなた自身の症状と悪い仲間のように厚かましく付き合っています。なんて恥知らずなんでしょう。そんな最低の関係でありながらちょっとコントロールができなくなると、こちら側にすり寄ってくるのもいっそう汚らわしい。あなたはそちら側から一歩も出ずに腐ってゆくのがせめてもの礼儀だと思います。私が人を呼んだのはあなたをどこかへ連れていくためではなく、あなたをここから追い出すためです。分かりましたか?では早く消えなさい」

まったくもってその通りだ、と僕は思った。

早く帰らないと。

でも、自分の部屋って何処にあったんだっけ?よく思い出せない。

病院から出て、数歩もしないうちにまたバチン!と神経が弾ける音がして頭の中がぐるりと一回転。脳動説。頭蓋の中で脳みそが回っている。気づくと僕はまたぶっ倒れている。ガサガサって音と、首回りがちくちくするので、植込みか何かに倒れ込んだのだと気づく。

頭上には澄んだ空気と満天の星空。

まったく、仰向けで本当によかった。